つれづれいきもの

昆虫、猫、鳥、他にもいろいろ・・・?身近な生き物観察記!

自然公園②(息をのむバトル!)

 風が心地よく空は晴れ渡り、緑豊かな公園での、のどかな散策のひと時でした。

 その光景に気づくまでは。

 明るい陽光の下、大きなフキの葉の上には、そんな空気とは無関係の張りつめた時間が流れていました。

 剥製のように動きを止めたトカゲが2匹。

 頭を突き出してにらみ合ったまま、微動だにしません。

 爬虫類が大好きな私は、一瞬でその空気に引き込まれ、彼らと同じように動きを止めました。

 引き続きのどかな晴天です。

 大きな葉っぱの上にいるのは小さなトカゲ2匹です。

 しかし、ものすごい緊迫感です。

 私が見下ろしている事に気づいているのでしょうか?

 たとえ気づいていたとしても「そんな事に構っていられるか!」とばかり、お互いの動きだけに全神経を集中して、間合いを計っているようです。

 完全な臨戦体制です。息をのむような緊張が続きます。

 これは滅多に見られるものじゃありません。

 私はじっくり、彼らの対決を見届ける事にしました。

 「誰もこっちに来ないで…」と思いながら、そっとその場にしゃがみました。

  そして目線が下がったので気づいたのですが、彼らがにらみ合っているフキの葉のすぐ横に、隠れるようにしてさらにもう一匹のトカゲがいるではないですか!

 これで状況が飲み込めました。

 臨戦態勢の2匹はオス。

 横で私と同じ様に2匹を見守っているのがメス。

 オス同士は彼女を賭けての戦いの真最中、という事で間違いないでしょう。

 こんな光景に出会えるなんて!

 「あーあ、ビデオカメラがあれば良かったなぁ…。」などと思いながら、私も息を殺して彼らを見守りました。

 

 それはどれ位の時間だったのか、よくわかりません。

 緊迫したその時間はとても長く感じられました。

 「果たして私は、この結末を見届けられるのだろうか…?」

 そう思った次の瞬間でした。

 2匹は突然、はじかれたように互いに飛びつきました!

 どちらから先に動いたのか、何がきっかけになったのか、私には全くわかりませんでした。

 小さいから静かです。物音なんてありません。

 しかし、その小ささに似合わぬ、激しいバトルです。

 接写のレンズで撮影したらきっと、コモドオオトカゲとか恐竜のような、ものすごい迫力だったと思います。

 

 どちらも頑張れ!

 トカゲにはどんな攻撃があるのか?

 この後どんな戦いが展開されるのか?

 固唾を飲んで見守りました。

 ところが次の瞬間、バトルが始まった時と同じ唐突さで、終わりは突然やってきました。

 そうです。

 彼らは激しく取っ組みあったまま、土俵である葉っぱの上からもんどりうって茂みに落ち、2匹の姿はあっという間に見えなくなってしまったのです!

 そんな展開が一番可能性高いな、と思ってはいました。

 湿地帯の草むらですからね…。

 

 さっきまでの緊張はどこへやら。 

 戦いの行方を見守っていた当事者の彼女と、傍観者の私だけが静かな空間に取り残され、何事もなかったかのように、辺りには小鳥のさえずりと湧き水の流れる心地よい音が響いていました。

 緊張の糸が切れたこの時、チラッと彼女と目が合いました。

 彼らはこのタイミングで湿地帯に落ちて、どちらかが勝ったとしても、果たして彼女と再会できるのでしょうか?

 当初の目的は達成できるのでしょうか?

 はなはだ疑問です。

 それどころか、こうしている間に別のオスがバトルなしで彼女をゲットしてしまう可能性だってある。

 そうなってしまったら、あの緊迫感にあふれたにらみ合いや、白熱のバトルに何の意味があったのか…。

 そう考えたら彼らがちょっと間抜けにも思えて、なんだかおかしくなりました。

 彼女も同じ事を考えているのでしょうか、それとも勇者の帰りをそこで待つつもりなのでしょうか。

 じっとフキの葉に張り付いていました。 

 

 あっけない結末で残念!

 私はそう思いながら彼女を驚かさないよう、静かに立ち上がりました。もうそこにしゃがんでいる理由はありません。

 そうして来た方を振り返ると、遅れていた子どもがやって来ました。

 私にはかなり長い時間に感じられたのですが、きっと3分も経っていなかったでしょう。いえ、もっと全然短かったのかもしれません。

 突然の幕切れは本当に心残りでしたが、貴重なドラマを見せてもらえました。

  小さな彼らですが、素晴らしい生命力、素晴らしい迫力でした。

 追いついてきた子どもに今の光景を話そうかな…と思いましたが、口で説明しても何も伝わらないでしょう。

 何も語らずに、ただ「もう2度とこんな場面に出会うことはないだろうなあ…」と思いながら私は子どもと一緒に歩き始めました。

 彼らも彼女も、あの後どうなったのかなあ…。